鏡の法則 5 (1〜4を先にお読みください。)

父の言葉を聞いたら、早く電話を切ろう。そう思った。

しかし、父から言葉が返ってこない。

『何か一言でも言ってくれないと、電話が切れないじゃない』そう思った時に、受話器

から聞こえてきたのは、母の声だった。

母「A子!あなた、お父さんに何を言ったの?」

A子「えっ?」

母「お父さん、泣き崩れてるじゃないの!何かひどいこと言ったんでしょ!」

受話器から、父が嗚咽する声が聞こえてきた。

A子はショックで呆然とした。

生まれて以来、父が泣く声を一度も聞いたことはなかった。

父はそんな強い存在だった。

その父のむせび泣く声が聞こえてくる。

自分が形ばかりの感謝を伝えたことで、あの強かった父が嗚咽しているのだ。

父が泣く声を聞いていて、A子の目からも涙があふれてきた。

父は私のことをもっともっと愛したかったんだ。

親子らしい会話もたくさんしたかったに違いない。

だけど私はずっと、父の愛を拒否してきた。

父は寂しかったんだ。

仕事でどんなに辛いことがあっても耐えていた強い父が、今、泣き崩れている。

娘に愛が伝わらなかったことが、そんなに辛いことだったんだ。

A子の涙も嗚咽へと変わっていった。

しばらくして、また母の声。

母「A子!もう落ち着いた?説明してくれる?」

A子「お母さん、もう一度、お父さんにかわってくれる?」

父が電話に出る。

父「(涙声で)A子、すまなかった。わしは、いい父親じゃなかった。

お前にはいっぱいイヤな思いをさせた。うっ、うっ、うっ、(ふたたび嗚咽)」

A子「お父さん。ごめんなさい。私こそ悪い娘でごめんなさい。

そして、私を育ててくれてありがとう。うっ、うっ、うっ(ふたたび嗚咽)」

少し間をおいて、再び母の声。

母「何が起きたの?また、落ち着いたら説明してね。一旦、電話切るよ。」

A子は、電話を切ってからも、しばらく呆然としていた。

20年以上もの間、父を嫌ってきた。

ずっと父を許せなかった。

自分だけが被害者だと思っていた。

自分は父の一面だけにとらわれて、別の面に目を向けようとはしなかった。

父の愛、父の弱さ、父の不器用さ、・・・これらが見えていなかった。

父はどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。

自分は父に、どれだけ辛い思いをさせてきたんだろう。

いろいろな思いが巡った。

「まずは、形から入ればOKです。気持ちは、ついてきますから。」と言ったB氏の言葉

の意味が、ようやく分かりかけてきた。

「あと1時間くらいで、○○○(息子)が帰ってくるな」

そう思った時に、電話が鳴った。

 

出てみるとB氏であった。

B氏「どーも、Bです。今、4050分くらい時間ができたので電話しました。

さっきは、次の予定が入ってたので、お話の途中で電話を切ったような気がしまして。」

A子「実は私、父に電話したんです。電話して本当によかったです。

ありがとうございました。Bさんのおかげです。」

A子は、父とどんな話をしたかを簡単に説明した。

B氏「そうでしたか。勇気を持って行動されて、よかったですね。」

A子「私にとって、息子がいじめられてることが最大の問題だと思っていましたが、

長年父を許していなかったことの方が、よほど大きな問題だったという気がします。

息子の問題のおかげで父と和解できたんだと思うと、息子の問題があってよかったのかな、

という気すらします。」

B氏「息子さんについてのお悩みを、そこまで前向きに捉えることができるようになったんですね。

潜在意識の法則というのがありましてね、それを学ぶと次のようなことがわかるんです。

実は、人生で起こるどんな問題も、何か大切なことを気づかせてくれるために起こるんです。

つまり偶然起こるのではなくて、起こるべくして必然的に起こるんです。

ということは、自分に解決できない問題は決して起こらないのです。

起きる問題は、すべて自分が解決できるから起きるのであり、前向きで愛のある取り組みさえすれば、

後で必ず『あの問題が起きてよかった。そのおかげで・・・』と言えるような恩恵をもたらすのです。」

A子「そうなんですね。ただ、息子の問題自体は何も解決していないので、それを思うと不安になります。」

B氏「息子さんのことは、まったく未解決なままだと思っておられるんですね。

もしかしたら、解決に向けて大きく前進されたのかもしれませんよ。

心の世界はつながっていますからね。

原因を解決すれば、結果は変わるしかないのです。」

A子「本当に息子の問題は解決するんでしょうか?」

B氏「それは、あなた次第だと思いますよ。さて、ここで少し整理してみましょうか。

あなたにとって、息子さんのことで一番辛いのは、息子さんが心を開いてくれないことでしたね。

親として、何もしてやれないことが情けなくて辛いとおっしゃいましたね。

その辛さをこれ以上味わいたくないと。」

A子「はい、そうです。いじめられてることを相談もしてくれない。

私は力になりたいのに、『ほっといて!』って拒否されてしまう。無力感を感じます。

子どもの寂しさが分かるだけに、親として、何もしてやれないほど辛いことはありません。」

B氏「本当に辛いことでしょうね。

ところで、その辛さは、誰が味わっていた辛さなのか、もうお解かりですよね。」

A子「えっ?誰がって・・・(しばらく沈黙)」

その時、A子の脳裏に父の顔が浮かんだ。


鏡の法則 6に続く